金融先進国のアメリカで「FinTech(フィンテック)」を支える商品やサービス、プレイヤーとは?
前項で解説したように、FinTech(フィンテック)先進国の米国で高い支持を受けているサービスには、「最速でリリースされ、進化を続けている」または「最高のプロダクトである」という共通点があります。ユーザーにとって、そのサービスを誰が作って誰が提供しているかは、さほど重要ではありません。
これは、過去の金融と技術の融合が、金融機関とその金融機関と密接に協働してきたITベンダーによって進められてきたのとは対照的です。昨今注目されるFinTech(フィンテック)企業のほとんどは、ユーザーに支持されるプロダクト・サービスを作り上げる、IT、テクノロジーに強いスタートアップです。
FinTech(フィンテック)はスタートアップが加速させる
この現象は、金融の世界だけで起きているわけではありません。例えば小売業界でも、ITを武器に新しいサービスを開発・提供し、普及させたのは、アマゾンや楽天などのスタートアップでした。
こういった業界では、多くのスタートアップが生まれ、激しい競争を繰り広げ、その結果、大半が敗れ去り、ごくわずかな「最速」で「最高」のサービスを提供し、ユーザーに本当の意味で支持されたプレーヤーだけが生き残りします。
一方で、従来から小売を手掛けてきた企業は、自社ビジネスとの兼ね合いから、より安い価格帯のサービスを出すことは難しく、仮に可能であっても、日々の業務に追われている為、スタートアップのスピードについていくことが難しい場合もあるでしょう。
大きな会社であれば、自社の中で徹底的なリスクテイクや素早い方向転換(ピポッド)を果たしていくことも、既存の組織構造や組織内の説明責任・承認プロセスを理由に、受け入れにくいという実態もあります。
ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が1997年に提唱した、いわゆる「イノベーションのジレンマ」に陥る場合があるのです。
移り気なユーザーの心を捉える「最速」で「最高」のサービスを自社開発するのも、容易なことではありません。なぜならそれは「多産多死」上の産物であり、意思決定プロセスが比較的長い大企業向きではないからです。
もし金融機関が自社のユーザーに「最速」で「最高」のサービスを提供したければ、金融機関の根幹をなすインフラを構築してきたITベンダーに加えて、「最速」で「最高」のサービスを提供できる、競争に生き残ったスタートアップと提携を行い、取り込んでいくという戦略が合理的でしょう。
これはつまり、昨今、巷で広く受け入れられ始めている「オープンイノベーション」の概念です。ハーバード・ビジネススクールのヘンリー・チェスブロウ助教授(当時)によって2003年に提唱された概念で、イノベーションを起こすために、企業は社内資源のみに頼るのではなく、大学や他企業との連携を積極的に活用することが有効であるという考え方です。
現在、多くの大企業がこの概念を積極的に取り入れ、ビジネスコンテストやベンチャーキャピタルの立ち上げを行っています。APIを提供するなどの方法で様々なプレーヤーと協力して、ユーザーフレンドリーな新しいビジネスを立ち上げ、新しい収益源を得ていくという流れが活発化しているのです。
また国内でも大企業がスタートアップと業務提携を行ったり、出資をしたりすることも起こってきています。
出資に当たっては、銀行にはこれまで通称「5パーセントルール」という足かせがありました。これは、金融機関が事業会社に出資する上限は原則5パーセントまでという法律で定められたルールですが、2016年3月現在、条件付きで緩和されていく見込みです。
これが実現すると、金融機関はこれまで以上の自由度をもって、スタートアップとの関係を強化することができます。
一方、スタートアップの側には、人々が命の次に大事にしているお金の情報を預かりサービスを提供することへの責任があります。データが消滅したり、セキュリティーに不備があって情報が漏えいしたりという事は、決してあってはならないことです。
FinTech(フィンテック)に取り組むスタートアップは、通常の業種に比べて、より高いスタンダードでサービスを提供することが必要であることを自覚し、ユーザーの期待を裏切らないセキュリティー体制・運用体制を構築することが求められます。
FinTech(フィンテック)で加速する金融サービスの「アンバンドル化」
FinTech(フィンテック)が前進しても、金融機関がなくなるわけではまったくありません。ただし、FinTech(フィンテック)が進むことで、金融サービスの「アンバンドル化」が起こってくると考えられています。
もともと金融というビジネスは、2つのサービスの階層から構成されています。1つ目の階層は、金融における「情報サービス」レイヤーです。
住宅ローンを例に、具体的に見ていきましょう。貸し手である金融機関は、住宅ローンを借りたい人の属性(年齢や給料、負債額など)や、その人が買おうとしている住宅を統計的に分析し、「このぐらいの金利なら、統計的に収益が出るので、貸すことができる」と判断します。
パソコンでいえば、これはアプリケーションソフトに相当します。
そして2つ目の階層は「インフラサービス」レイヤーです。
金融機関は住宅ローンを借りたい人との間で賃貸契約を結び、その契約内容を記録に残すわけですが、その記録や履行はインフラサービスレイヤーで行います。この部分は、パソコンでいうならばOSに近い概念です。
従来の金融機関は、この情報サービスとインフラサービスを一手に担ってきました。
しかし現在、多くの金融機関のユーザーは、各金融機関が提供する情報サービスに差異を見出せなくなっています。もともと金融のインフラサービス部分はコモディティー化しやすく、同じ機能を果たすのであれば、とにかくより安く提供して欲しいと思われやすい性質があります。
そのため金融機関では、情報サービスにおいて顧客のニーズを正しく評価し、役立つアドバイスを含めたサービスを提供することが、その付加価値とされてきました。
しかし、その役割において、金融機関が明確な違いを打ち出すことはなかなか困難でした。裏を返せば、情報サービスの部分でほかと明確な違いを打ち出せる金融機関は、新規のユーザーを獲得できるという事でもあります。
インターネットの普及に伴い、各産業で大きな構造変化が起こっています。金融業界でも、従来は、情報サービス部分とインフラ部分を金融機関が両方提供していましたが、テクノロジーの急激な進化とユーザーが求めるサービス品質の高度化に伴い、特に情報サービス部分では様々なプレーヤーが誕生しました。
こうして情報サービスとインフラ提供の機能が分離する「アンバンドル化」が見られるようになってきました。アンバンドル化が行われた産業では、それぞれの機能を最も得意なプレーヤーが提供することになります。ユーザーから見れば、より低コストで高品質なサービスを享受することができるようになるわけです。
FinTech(フィンテック)に取り組むスタートアップの多くは、情報サービスの部分でテクノロジーを活用し、ユーザーに新しい価値を提供しようとしています。ユーザーの顕在・潜在ニーズを汲み取り、最新の技術で使いやすいサービスを提供することで、今までにない付加価値をユーザーに提供できるようになるのです。
ユーザーが自らのニーズを明確に捉えてくれる金融サービスを求めるなかで、金融機関は今まで以上に、ユーザーに高い満足をもたらすサービスを提供しなくてはなりません。
そのため、アンバンドル化の先には、自前の機能の代わりに、優れた情報サービスを提供するスタートアップと組み、従来とは異なる形態でサービスを提供する「リバンドル化(再編成)」が進展していくものと考えられます。
一方、インフラサービスは、一般的にはスタートアップが手を出しにくい部分です。インターネットの黎明期にはいくつものプロバイダーが登場しましたが、プロバイダーがしていたことは主に、NTやKDD(現KDDI)などが保有している回線の上での、サービス提供でした。
自前で回線を引くには巨大な資金力も技術も必要となるので、当然のことといえるでしょう。
金融はとりわけ信用が重視されるビジネスですから、従来の金融機関はこのインフラ部分での、今後も変わらず強い存在感を発揮し続けるにちがいありません。ただし、金融機関がいくつも存在するなかで、インフラの部分だけで他の金融機関と違いを打ち出せる金融機関は、そう多くは無いはずです。
FinTech(フィンテック)が無くなる日!?
「FinTech(フィンテック)はバブルでは無いか?」という指摘があります。確かに、直近のFinTech(フィンテック)企業への注目度や投資額はともに大変大きなものがあります。国内だけを見ても、2015年にFinTech(フィンテック)系スタートアップは約139億円を調達しています。
これは2014年の約57億円の3倍近い数字です。
「現在のFinTech(フィンテック)は一過性のブームではないか」という指摘についても、言葉としてのFinTech(フィンテック)という意味では、確かにそうかもしれません。
ただし現状は、ハイプサイクル(新しい技術的な用語が世の中に浸透する過程を図示したグラフ)における、立ち上がりのピークを目指す過程にあるのではと考えられます。
新しい商品やサービス、技術が世の中に紹介されると、希少性や目新しさも相まって、それが過剰な期待を集め、大きな話題となります。
例えば、スティーブ・ジョブズが米アップルの開発者会議の基調講演でiPadを発表した瞬間が、タブレットという製品のハイプのピークと言われる瞬間といえます。
アップル製品の熱狂的な愛好者やタブレットに大きな可能性を見出した人は、まだ見ぬ製品に思いをはせてアップルストアに列をなし、その新製品を手に入れます。メディアもその熱狂具合を社会現象として報じます。
最初は皆、意気揚々と毎日かばんに入れて持ち歩きます。しかし、iPadの初期がそうであったように、端末が重いとか、アプリが少ないといった様々な理由でiPadに「思っていたほどではなかった」という幻滅を感じ、引き出しにしまったままになるフェーズが来ます。
その人達の中ではiPadブームはいったん冷め、メディアもあまり報じなくなります。
しかし思わぬところで、しまいこまれたiPadにユーザーが再び気づき、使い出します。例えば、引き出しにiPadを見つけた子供が、YouTubeで好きなアニメの映像を見るようになるのです。その母親が、クックパッドでレシピを探します。
そうこうしているうちに、今までボトルネックであった重さやアプリの少なさなどの問題が、メーカーやサービス提供事業者側でプロダクトの開発やエコシステムの構築が進むことによって解消され、ユーザーである子供たちやママ友の間でiPadは便利なのという認識が広まり、それをきっかけに新たに購入する人が出てきます。
こうなってみて初めて、iPadというタブレットは普及したといえ、その技術的な評価も安定していきます。そしてこのときには、あれほど流行語のようだった「タブレット」という突然現れた概念を示す言葉はもう使われません。
FinTech(フィンテック)もおそらく、そうなるでしょう。今、FinTech(フィンテック)と総称されているものが当たり前の存在になれば、それぞれの固有名詞で呼ばれ、誰も概念を気にしなくなります。FinTech(フィンテック)が世の中に浸透すれば、FinTech(フィンテック)という言葉は消えていくのです。
では、どんなサービスがFinTech(フィンテック)という言葉を再定義していくのか。次項で詳しく解説していきます。
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[最終更新日]2016/08/02